2015.7.7.

2015年7月7日 火曜日

最近、南海トラフ地震の被害想定についての考察を話す機会が増えているが、講演を終えての会場の反応は、こちらが驚くほど南海トラフ地震についてナイーブな反応をされることが多い。
なぜなのだろう、と、いつも考える。そう、情報がないからだ。日本地震学会の正会員が2000人ちょっと、この中で専門中の専門の地震学者は恐らく1000人ちょっとだろうか。
その中で南海トラフに造詣の深い専門家は何人ぐらいいるのだろう。
現役で情報を発信しておられる専門家を、私は数人しか知らない。
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ところで「専門家」と呼ばれる人の役目は何か。
一番には研究だろう。最新の知見を誰よりも深く研究する。しかもそれで生業を立てることができるのが、専門家の専門家たる所以だ。
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しかし私は、それだけでは足りないと考えている。
専門家は、自分の研究で知り得た専門領域の事案を、一般の人々に伝え広めるために、専門的な話を噛み砕いて「翻訳」をする、その人のことを真の専門家いうのではないかと思うのだ。
敢えて言えば、日本の地震学者には、ここが圧倒的に足りない。
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日本に20万人ほど居る私たち臨床医は、患者さんを治療する上で、知識や経験や技術を磨くとともに、どれだけ丁寧に翻訳作業をするべきなのか、それこそが最も大切なことであると身をもって知っている。
臨床医の翻訳機能は日々磨かれてゆく。インターネット時代になって、最も磨かれた医師のスキルは恐らく翻訳機能であろう。
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他の専門家集団はどうだろうか。地震や火山の専門家は翻訳のスキルを殆ど磨かないでもいい時代が長く続いてきた。
しかし天地動乱のこの時代は、あらゆる専門家が自分の持てうる知見を噛み砕き、他分野への影響も鑑みて、しっかりと社会に伝えて行くことが必要ではないだろうか。
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その意味で、南海トラフ地震の最大のリスクである浜岡原発と伊方原発の事故の想定を、もっとしっかりと伝えてゆく必要があると私は思っている。
神戸大学の石橋克彦名誉教授のように、それを実践されている学者の声に、今こそ私たちも耳を傾けなくてはならない時が来ている。
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それとあらゆる専門家には、ぜひ勇気を持って、他分野であっても南海トラフ地震のエフェクトについて言及して欲しいと思う。臨床医が患者さんにムンテラする程度の広く浅い知見で構わない。自分の守備範囲を敢えて超えても、たった今、この国に住む人々に伝えなくてはならないことがあるはずだからだ。
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さて、連載している紙面に南海トラフ地震のリスクについて、中央防災会議では決して触れることない原発震災のリスクについて、長い長い原稿をようやく入稿した。夜のニュースでは川内原発の再稼動への動きを伝えている。
思わず、馬鹿言ってんじゃないよと毒づく晩だ。
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星逢ふ夜川内原発蠕きぬ


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