2014.8.22

2014年8月22日 金曜日

 

「被ばく健診」を始めるために   青木クリニック  青木正美

はじめに

2011年3月11日の福島原発事故から、3年半が経った。この間、被災者の最も不安である事柄は「健康被害」についてである。

この3年半の被ばく検診の実態を紹介し、今後長らくつき合わざるを得ない低線量被ばく時代の「被ばく健診」のあり方について考えてみたい。

1.現行の「被ばく検診」のあらまし

この間、事故による「被ばく検診」は福島復興再生特別措置法(以下は福島特措法)によって、福島県民にのみ以下が実行されている。これは「基本調査」「甲状腺検査」「健康診査」の3部門からなっている。

「基本調査」は全県民を対象に初期被ばくの時期には何処に居たのかという実態を調べたアンケート調査である。

「甲状腺検査」は2011年3月11日に0から18歳までの全県民36万人を対象に甲状腺の視診・触診・エコーが行われている。ここで結節性病変が認められた場合には福島県立医大に於いて二次検査(詳細なエコー・採血・尿検査・細胞診)が行われる。

「健康診査」は避難地域住人(田村市・南相馬市・川俣町・広野町・楢葉町・富岡町・川内村・大熊町・双葉町・浪江町・葛尾村・飯舘村・伊達市の一部)の全てと「基本調査」で外部被ばく量が高かった者にだけ行われている。

ここで注目すべきなのは、浜通りの13町村以外の県民に対しては、既存の健診(労働安全衛生法に基づく定期健康診断、学校保健法に基づく健康診断など)をする際に、希望者には血液検査を行っているという事実である。この検査の対象数は40万人ほど。

通常、放射線障害で最も検査に反映するのは、白血球であるので、白血球分画は必須と考えるが、実は13町村以外の地域では検査がなされていない。

この事故に因って、被ばくが疑われている地域の人々には等しく、せめて白血球分画の検査は、定期的に行うべきであろう。ましてや、福島特措法ではその対象者は、「福島県民」に限られているのが現状なのである。

2.福島県以外での検診の実態

3月11日の原発事故による放射線汚染は、福島県のみならず広い範囲に拡散してしまい、栃木県北部・茨城県・群馬県などの北関東地位域や千葉県から東京都の一部の東葛地域、宮城県の一部も高濃度汚染地域になってしまった。

ところが、これらの地域では、3年半経った今でも何らの被ばく検診は実施されていない。

心配した母子が自発的に検診を行っているのが実情である。

3.現行の健診制度

現在日本では、世界で有数の国民皆保険制度が稼働しているといわれている。また、年齢により各種の健診制度が稼働している。例えば、母子保健法によって実施されている乳幼児検診、学校保険安全法によって実施されている学校検診、40歳以上には健康保険法で実施されているいわゆる「メタボ検診」などの現行制度が稼働している。

これだけの大規模な放射線汚染が起こってしまった現在、本来であれば広島・長崎での「原爆手帳制度」のような、国費による新しい検診制度を創設するべきであると筆者は思うのだが、第一に未だ低線量被ばくの健康被害の実態が不明な点が多く、それ故に因果関係の有無について全く議論が進んでいない。第二には少子高齢化により、ここ20年ほどで健康保険制度の疲弊が厳しく、また医療費により国家財政の逼迫されているのが現実的である。このままでは、被ばく健診・被ばく医療の新しい制度を創設して動かすには大変な時間がかかり、持続的な健診を続けてゆくのは困難では無いかと思われる。そこで、健康保険法の小規模改定などにより、現行の健診制度を利用しての「被ばく健診」を、可及的速やかに実現することができないだろうか?

4.現行制度を最大限に活用する

現在最も大規模に行われているのが、前述した成人のいわゆる「メタボ健診」である。これは20年度から始まった検診であるが、被保険者がそれぞれに属している各種の社会保険や組合保険・国民健康保険などを全て横断して、それぞれの職場の健診などに組み込んで、健康保険法に基づいて生活習慣病の検査を行いこれを厚労省が直接管理している。

この「メタボ健診」方式で、学校検診や乳幼児健診に白血球分画を含む血液検査を追加できないだろうか。

いま学校検診では小中学9年間に2回の心電図健診が実施されているが、セシウムは心筋に沈着することがよく知られているので、学校健診の心電図のデータの活用も有意義に使いたいものである。

さいごに

原発事故から3年半が経ったが、健康被害の話題は専ら甲状腺癌に収斂され、その他の健康被害を完全に黙殺するような異常な社会状況にある。

しかし子どもたちの異常の報告は数多くあり、私たち臨床医は低線量被ばくによる健康被害について、今後も注意深く診てゆく必要があるだろう。

チェルノブイリの事故の後、ソ連の隠蔽工作に異議申し立てをして、子ども達の健康被害を真っ先に告発したのは、ウクライナやロシアの女性医師たちであった。その先達の勇気に敬意を表しながら、ここに新たな「被ばく健診」の提言をしたく思う。

日本女医会東京都支部会誌50号より

 

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虫の声する信濃の夜半よ
こんなに好きといっているのに
サイゴノタブーヤブリニユコウゼ


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